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相続はたいへん?!

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▶ 相続放棄が増え、過去最多の26万件が受理されたというニュースがありました。 当事務所にも、「山林の管理が大変だから、亡くなった人に借金はないけど、相続放棄したい」というご相談が増えています。 なお、亡くなった人の名義の自宅に住み続けたままでの相続放棄は可能ですが、下記民法940条に注意してください。   相続放棄をすれば、はじめから相続人でなかったものとみなされますので、遺産に対する権利は得られませんが、義務も負いません。固定資産税も支払う必要はありません。ただし、遺産を占有している(使っている)ときは、他の相続人や、相続財産清算人にその遺産を引き渡すまでの間、自分の財産と同じ注意の程度で、その遺産を管理する責任が定められています(民940条)。 無人となった建物は、周辺住民の迷惑となったり、いずれ倒壊の危険もあります。 放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれがあるなどの理由で「特定空家」に指定された場合は、相続放棄後であっても、その建物の「管理者」として、修繕等の措置をとるよう指導されたり、行政代執行の費用を負担させられたりすることがあります。 また、相続放棄後であっても、不動産が放置できずに売却や取壊しを要する場合には、ほかに申立をしてくれる人がいなければ、家庭裁判所に相続財産清算人選任申立をすることもあります。 この場合、遺産に十分なお金がないときなどには、裁判所が申立人に50万円程度の保管金の予納を命じることもあります(清算人が遺産を換価して、清算にかかる費用をまかなうことができれば、予納金は申立人に返金されます)。 このように、市街地の住宅用建物などは、相続放棄をしておけばあとは無関係、というわけにはいかないこともあるのです。 先日のニュースで、明治生まれの男性はもうこの世に生存しなくなったと言っていました。しかし、飛騨ではまだまだ、明治生まれの方が所有者のままの不動産登記にお目にかかります。 そうした登記を解消しようと、2024年4月から、「相続登記の義務化」がスタートしました。 相続があったことを知ってから原則として3年以内に相続登記をする必要があります。期限までに遺産分割ができていない場合にも、自分が相続人の一人であることを示す「相続人申告登記」という手続が必要です。2024年4月より前に発生した相続であっても、2027年4月までに...

弁護士のしごと

 弁護士のしごとは、依頼者の利益を最大化することです。依頼者の利益とは何でしょうか。かけだしのころ、恩師の弁護士北村栄先生からこんな話を伺いました。  ある法律相談に、若い娘が母親と一緒にやってきました。母親は娘の夫がいかにひどいかを言い立て、娘がすぐに離婚すべきだと述べました。娘はことば少なでした。三〇分間口を挟まず黙って聞いていた老練な弁護士は、娘に向かってひとこと「あんた、ほんとは離婚したいんとちゃうやろ」と言ったのです。娘は絶句して、静かな涙を流しはじめました。ほんとうは、夫からもっと大事にしてほしかったのです。でも、自分のことを心配してくれる母親に言えなかったか、母親の助言に耳を傾けるうちに自分の気持ちが分からなくなってしまっていたのでしょう。依頼者のことばやふるまいの背後に隠されている思いを、冷静に見極めなければなりません。  「どんなに自分の言い分が正しくても、相手を完膚なきまでに叩きのめしてはいけない」という言葉も肝に銘じています。相手をコテンパンにすれば、相手から強い恨みを買います。非科学的ですが、自分に向けられた恨みは自分に対してマイナスの影響を及ぼすと思っています。それに、紛争の相手の多くは、地縁や血縁など何らかの繋がりのあった人です。その縁を切ったつもりでも、その後の人生を同じ社会的共同体の中で生きていくことに変わりありません。そうであれば、相手の立場を尊重しないような解決の仕方は、巡りめぐって依頼者の利益にならないといえます。  北村先生は、「この問いに対する私の究極の答えは、次のようなものになります。すなわち、『この悩み、トラブルがあったことをよかったと思って頂くこと』というものです。依頼者は、深く悩み、傷つき、怒り、時にはその呪縛で日々鬱々と過ごしたり、身体を悪くされる場合もあります。それほどの深い悩みを、それが自分に起こって良かったんだ、いやそれ以上に、その悩み、トラブルに「感謝する」というものです。」と仰います。  辛い体験を受け入れ、しかもその不運に感謝するというのは並大抵ではありません。依頼者の気持ちに寄り添いたいという真摯な思いで研鑽し、この究極の目的に近づける弁護士になりたいと心から思います。 弁護士 漆原

激動のネパールをめぐる旅

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 2025年3月20日から24日にかけて、私の所属する法律家団体の一つである日本国際法律家協会主催(以下では「国法協」と略します)のスタディツアーに参加して、ネパールへ行ってきました。  ネパールは、インドと中国に挟まれ、エベレストを含むヒマラヤ山脈を北に臨む内陸国です。面積は北海道の約1.8倍、人口は約3000万人です。  この国の進歩的法律家の団体であるPPLA(Progressive and Professional Lawyer’s Association、進歩的職業法律家協会)から招待され、国法協会長ほか総勢13名での旅行でした。  1日目は、エベレストを飛行機から眺めるフライトツアー、カトマンズの南隣パタンにある高等法院の訪問、ネパールで最初に設立されたという法律事務所の訪問、同事務所の弁護士を交えての昼食会、世界遺産であるダルバール広場とスワヤンブナート寺院の観光、PPLAの皆さんとの夕食会でした。  2日目は、ネパールではリゾート地として有名なポカラへ移動し、近郊の村へ立ち寄って暮らしの説明を受けた後、サランコット村で展望台へ登ってアンナプルナを観て、パタレチャンゴの滝を観て、グプテシュワール・マハーデヴ洞窟へ潜り、さらに日本山妙法寺が建てた仏塔に寄りました。夜はポカラの街を歩いて見つけたチベット料理のレストランへ皆で入り、「モモ」と呼ばれる餃子のような料理やネパール産のビールを楽しみました。 3日目は、早朝から別の展望台へ登ってアンナプルナの向こうから現れる日の出を観た後、ペワ湖でボートへ乗り、カトマンズへ戻ってネパール最大の仏塔であるボダナートへ行きました。夕方、ネパール人労働者の送り出し機関を訪問し、代表者の方とカトマンズ市内のレストランで夕食を取りました。  4日目は、前日と別の送り出し機関を訪問した後、帰国の途につきました。  盛りだくさんの旅行で学ぶことも多かったのですが、紙幅の都合でさわりだけとします。皆さんのご希望があれば、また書きます。 弁護士 川津

再審法改正を!

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 雪冤(せつえん),という言葉があります。無実の罪を晴らすという意味です。私たちの多くは一生,使う機会のない言葉です。  静岡4人強盗殺人・放火事件(いわゆる「袴田事件」)について,最高検察庁がまとめた報告書は,検察官が,第一次再審請求から約30年間も経過してようやく「五点の衣類」のカラー写真等の開示に応じたり,再審開始決定に対して即時抗告をしたため,再審公判開始までに約十年も要したことについて、検察官の対応には問題がなかったとしています。しかし再審の具体的な手続規定がないため,検察官の対応が問題視されることなく手続が長期化したといえます。  そこで,刑事訴訟法に再審の手続規定を定める(これを「再審法改正」と呼んでいます)ための運動が,全国で高まっています。  岐阜県弁護士会では,県市町村議会および首長に,再審法改正の賛同・意見書採択の働きかけをしています。現在(2025年3月時点)、県議会を含む22の議会で意見書が可決され、過半数に達しました。また,21名の首長から賛同署名が出されています。  飛騨地方では,2024年9月に飛騨市長,11月に高山市長,2025年3月に白川村長が賛同して下さり,高山市議会,飛騨市議会,白川村議会から,賛同署名をいただいています。  昔のようなひどい取調べはなく,DNAで科学的に犯人が分かる時代だから,えん罪はもう起きない…と言いきれるでしょうか。日弁連が支援し、2010年以降に無罪が確定した件は7件,いまも続いている再審事件は11件あります。  袴田さんのように雪冤に50年も費やすような刑事手続は,私たちの代で改める責任があると考えます。 弁護士 漆原

「税金とわたしたちのくらし」

2024年5月18日、岐阜県民主商工会事務局長の早野幸広さんをお招きして、ひだ法律事務所友の会第10回総会記念講演会を開催しました。 早野さんは、消費税は、事業者が代金に含める付加価値税であって「預かり税」ではなく、消費税法には消費者が負担するとは定められていないと説明されました。なお、「預かり税」でないことは、2023年2月10日衆議院内閣委員会で、当時の金子俊平財務大臣政務官がはっきり認めています。 インボイス制度の導入により、課税売上高が一千万円以下であっても、適格請求書発行事業者となれば消費税納税義務が生じます。 仕入税額控除を受けたい課税事業者はインボイスを発行できる事業者との取引を望むため、消費税の支払が免除されない適格事業者にならざるを得ず(または、消費税相当額の値引きを強いられ)、零細事業者に対する事実上の増税になっています。欧州諸国はもっと税率が高いと言われますが、食料品、水道水、医薬品、新聞、書籍、芸術など、生活必需品には広く非課税もしくは軽減税率が適用されているとのことです。輸出大企業ばかりを優遇せず、零細業者のくらしを守るためには、消費税のありかたを見直す必要があると学びました。 弁護士 漆原  

「虎に翼」

 NHK朝ドラの「虎に翼」で先日、原爆訴訟のエピソードが描かれ、一度は尋問に立つ覚悟を固めた原告の被爆者女性が社会の偏見に怯え、代理人から助言を受けて尋問を取りやめるという場面がありました。  私はこの場面にちょっと引っかかるところがありました。  原爆訴訟のように、従来の法令解釈では認めにくいけれども正義公平の観点から認められるべき事件では、法令や過去の裁判だけを根拠にしても、なかなか勝てません。  そのような事件では、尋問をはじめ様々な手段で、裁判官にできるだけ「生の事実」を伝え、新たな法理論や解釈により公平な判決を出してもらうのです。  すると、当事者が悩み怯えていても、弁護士としては「尋問をやめましょう」とはなりません。できるだけ尋問を実施する方向で、当事者を励まし、苦悩や恐怖に寄り添おうとするはずです。  ドラマでは、原告の手紙を法廷で読み上げていましたが、裁判官の目前にいる生身の人間によって語られる、反対尋問を経た証言の方が、やはり信用できます。  そんな違和感があったところ、実際の事件では、原告本人尋問を申請したが、裁判所に採用されなかったのだという、SNSの投稿を読みました。その投稿を根拠にこれが事実だと断定するつもりもないのですが、弁護士としての経験や感覚によくなじむ経過なのは確かですから、私はドラマのこの展開は創作によるものだと思いました。  創作されたのだとして、その意図は素人にはわかりませんが、裁判所の現実を乗り越えようとする主人公の姿を見せてくれたらもっと感動できたのにと、少し残念な気持ちになりました。 弁護士 川津

敵基地攻撃能力

 政府は、「相手からの更なる武力攻撃を防ぐために、我が国から有効な反撃を相手に加える能力、すなわち反撃能力を保有する必要がある」(国家安全保障戦略)として、2022年12月、「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」及び「防衛力整備計画」のいわゆる安保三文書の改定を閣議決定し、相手の領域において、わが国が有効な反撃を加えることを可能とする能力(敵基地攻撃能力)を保有しようとしています。  敵基地攻撃能力とは、日本が、他国の領土をミサイルなどで直接攻撃できるようにするものです。敵の基地だけを攻撃するように読めますが、それに留まるものではありません。2022年12月の政府・与党協議では、「軍事目標」を対象とする、とされました。軍事目標とは、「物については、その性質・位置・用途または使用が軍事的行動に有効に役立つもので、かつその破壊または毀損、その捕獲または無力化がその時の状況において明確な軍事的利益をもたらすもの」と定義されます(ジュネーブ条約に対する1977年の追加議定書)。軍用施設だけでなく、民間の非軍事施設であっても、軍事的に利用されるものは広く「軍事目標」にされる可能性があるのです。  このような敵基地攻撃能力の保有及び行使は、憲法に違反するおそれがあります。日弁連や東京弁護士会をはじめ、全国の弁護士会の多くが、その保有及び行使に反対しています。 弁護士 漆原