「虎に翼」
NHK朝ドラの「虎に翼」で先日、原爆訴訟のエピソードが描かれ、一度は尋問に立つ覚悟を固めた原告の被爆者女性が社会の偏見に怯え、代理人から助言を受けて尋問を取りやめるという場面がありました。
私はこの場面にちょっと引っかかるところがありました。
原爆訴訟のように、従来の法令解釈では認めにくいけれども正義公平の観点から認められるべき事件では、法令や過去の裁判だけを根拠にしても、なかなか勝てません。
そのような事件では、尋問をはじめ様々な手段で、裁判官にできるだけ「生の事実」を伝え、新たな法理論や解釈により公平な判決を出してもらうのです。
すると、当事者が悩み怯えていても、弁護士としては「尋問をやめましょう」とはなりません。できるだけ尋問を実施する方向で、当事者を励まし、苦悩や恐怖に寄り添おうとするはずです。
ドラマでは、原告の手紙を法廷で読み上げていましたが、裁判官の目前にいる生身の人間によって語られる、反対尋問を経た証言の方が、やはり信用できます。
そんな違和感があったところ、実際の事件では、原告本人尋問を申請したが、裁判所に採用されなかったのだという、SNSの投稿を読みました。その投稿を根拠にこれが事実だと断定するつもりもないのですが、弁護士としての経験や感覚によくなじむ経過なのは確かですから、私はドラマのこの展開は創作によるものだと思いました。
創作されたのだとして、その意図は素人にはわかりませんが、裁判所の現実を乗り越えようとする主人公の姿を見せてくれたらもっと感動できたのにと、少し残念な気持ちになりました。
弁護士 川津