神岡じん肺訴訟の記念冊子ができました
○このたび、私が弁護団に加わっている神岡じん肺事件の記念冊子「命をかけた戦い-神岡鉱山じん肺裁判・12年の記録-」が発行されました。
神岡じん肺事件は、飛騨市神岡町の神岡鉱山で発生した労働災害であるじん肺に罹患した労働者多数が、「あやまれ、つぐなえ、なくせ、じん肺」をスローガンに、経営会社である三井金属鉱業株式会社やその関連会社に対して賠償を求めて訴訟を提起した事件です。
じん肺とは、粉じんを吸入することにより肺の器官が繊維質の組織に変質して呼吸の困難などの症状を引き起こす病気です。
神岡じん肺事件は、2009年の第1陣提訴から、2014年の1陣地裁判決・控訴と2陣提訴、2016年の1陣高裁判決と上告、2017年の1陣高裁判決確定、2020年の2陣地裁判決と控訴、2021年の2陣高裁判決と上告及び3陣提訴、2022年の2陣高裁判決確定を経て、今でも第3陣が岐阜地方裁判所に係属中です。
三井金属側は一貫して、「十分な粉じん対策を講じていた、原告はじん肺に罹患していない」と主張して、全面的に争ってきました。
しかし、いずれの判決でも会社側の安全配慮義務違反(粉じん対策の不十分)を認めていることに加え、第2陣の高裁判決では、CT画像によって労災認定を覆せるという会社側の主張を認めないという判断まで勝ち取りました。
この記念冊子は、ここに至るまでの弁護団と原告団の苦労や思いを、弁護士や原告自身が語るという貴重な内容になっています。
○じん肺の罹患を理由とする賠償請求事件は古くから全国で訴訟となっており、原告となる労働者の職種も、鉱山労働者だけでなく、トンネル労働者、建設労働者など様々です。
そして、私も神岡じん肺に関わるまで知らなかったのですが、神岡じん肺事件まで、被告会社側は労働者がじん肺に罹患していることを強く争わないのが通常だったようです。
これは、じん肺に関しては「じん肺法」という法令が制定され、労災認定手続の一部として診断の基準や方法まで定められており、まず労災認定を得て、それから会社に対する訴訟を起こす手順を踏むため、じん肺罹患を争うということは、すなわち厳格な手続を通じて確定したといえる診断を争うということに他ならず、勝ち目が薄いと考えられていたからのようです。
ところが、三井金属は、比較的新しい診断方法であるCT画像の所見によれば、じん肺であればあるはずの陰影がないとして、じん肺の罹患そのものを否定してきたのです。
そのため、弁護団の見通しは大きく外れ、医学的な立証のために困難な取り組みを余儀なくされました。
記念冊子では、その困難を克服していった過程と、克服できた理由が、克服した弁護士自身によって記されています(その弁護士は残念ながら私ではありませんが)。
○また、じん肺は進行性不可逆性と表現される病気であり、一度かかると、現在の医学では治すことができません。少なくない原告の皆さんが、提訴からこれまでに、肺がんなどじん肺に起因すると思われる病気で亡くなり、ご遺族の方が遺志を継いで原告に立たれています。
記念冊子には、原告の方の思いだけでなく、ご遺族の方から見た原告の苦しみや思いも記されています。
○このように、被告会社側の無責任な態度を打ち破った画期的判決までの道程を、鮮明に刻んだ記念冊子を発行できたのは、協力してくださった医師の皆様、労働組合や市民有志の支援のたまものです。誠にありがとうございました。
末席ながら弁護団に加わる一員として、一つの節目を迎えた感慨に浸りつつ、お礼を兼ねてご報告する次第です。
興味のある方は、記念冊子を差し上げますので、お問合せ下さい。
弁護士川津